タイ天然資源環境省気候変動環境局(DCCE:Department of Climate Change and Environment)は、2024年11月8日から22日まで、気候変動法案(2024年第2草案)についての意見募集を実施しました。本法案の草案は、2024年2月に公表された従来の草案と同様に14章で構成されていますが、条文が34条追加され、169条から202条に増加しました。比較表は以下の通り。
第1回(2024年2月の草案) |
第2回(2024年11月の草案) |
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表題 |
関連条項 |
条項数 |
表題 |
関連条項 |
条項数 |
序章 |
第1 – 6条 |
6 |
序章 |
第1 – 5条 |
5 |
第1章 一般規定 |
第7 – 9条 |
3 |
第1章 一般規定 |
第6 – 7条 |
2 |
第2章 気候変動に関する国家目標 |
第10 – 12条 |
3 |
第2章 タイ王国の気候変動対策に関する活動の目標 |
第8 – 9条 |
2 |
第3章 国家気候変動政策委員会 |
第13 – 21条 |
9 |
第3章 国家気候変動政策委員会 |
第10 – 18条 |
9 |
第4章 気候変動基金 |
第22 – 34条 |
13 |
第4章 気候基金 |
第19 – 37条 |
19 |
第5章 気候変動適応のための基本計画 |
第35 – 39条 |
5 |
第5章 国家気候変動適応のための基本計画 |
第38 – 42条 |
5 |
第6章 温室効果ガス情報 |
第40 – 66条 |
27 |
第6章 温室効果ガス情報 |
第43 – 65条 |
23 |
第7章 温室効果ガスの削減 |
第67 – 72条 |
6 |
第7章 温室効果ガスの削減 |
第66 – 71条 |
6 |
第8章 排出権取引制度 |
第73 – 98条 |
26 |
第8章 温室効果ガス排出権取引制度 |
第72 – 99条 |
28 |
第9章 炭素税制度 |
第99 – 112条 |
14 |
第9章 国境炭素調整措置 |
第100 – 117条 |
18 |
第10章 カーボンクレジット |
第113 – 124条 |
12 |
第10章 炭素税 |
第118 – 147条 |
30 |
第11章 気候変動への適応 |
第125 – 141条 |
17 |
第11章 カーボンクレジット |
第148 – 155条 |
8 |
第12章 気候変動対策推進措置 |
第142 – 143条 |
2 |
第12章 気候変動への適応 |
第156 – 172条 |
17 |
第13章 気候変動及び環境経済活動分類基準 |
第144 – 147条 |
4 |
第13章 気候変動及び環境に配慮した経済活動分類基準 |
第173 – 175条 |
3 |
第14章 罰則規定 |
第148 – 165条 |
18 |
第14章 罰則規定 |
第176 – 197条 |
22 |
附則 |
第166 – 169条 |
4 |
附則 |
第198 – 202条 |
5 |
上記の表からわかるように、各章の基本的な原則と目標はそのまま維持されているが、多くの章で条文数が増加しました。また特筆すべき点として、第12章「気候変動対策の推進措置(第1回目)」は削除された一方、第9章「国境炭素調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism: CBAM)」が追加されました。以下、各章の概要を紹介します。
序章(第1~5条)
本法案の目的は、タイ王国における気候変動問題の解決を目指し、低炭素経済及び社会への移行を進めることである。また、気候変動に対する適応能力を高め、タイ王国が気候変動に対して免疫を有することを確保する。加えて、気候変動への対処を促進するための環境を整備することを目的としている。さらに、気候変動、温室効果ガス、温室効果ガスの削減、気候変動への適応、排出枠などの重要な定義も規定されている。
第1章 一般規定(第6~7条)
重要な範囲を定め、国民の権利を保証するとともに、気候変動に関する計画と政策の策定における各セクターの参加を定める。
第2章 タイ王国の気候変動対策に関する活動の目標(第8~9条)
気候変動に関する短期、中期、長期の目標を定めるとともに、国際的な義務に整合させ、気候変動対策が拘束力を持ち、定められた期間内に効率的かつ効果的に実施されるようにする。
第3章 国家気候変動政策委員会(第10~18条)
気候変動に関する政策と実施方針を策定する際に関係機関間での統合的な作業を実現するために、委員会の職務と権限を定める。
第4章 気候基金(第19~37条)
- 第1部 基金の設立、収入及び支出
気候基金を設立し、国の競争力を高めるための資金源として使用する。基金の収入は、温室効果ガス排出権取引制度(Emission Trading Scheme: ETS)、国境炭素調整措置(CBAM)、政府からの助成金、寄付金など、さまざまな源から得られる。同基金は、温室効果ガスの削減、気候変動への適応、研究開発、及び基金の管理に関連する活動を支援するために使用される。
- 第2部 気候基金委員会
気候基金委員会は、政府機関の代表者及び民間セクターの専門家で構成され、委員会のメンバーは資格を満たし、基金と直接的又は間接的に利益相反がないことが求められる。
- 第3部 気候基金事務局
事務局は、一般業務の管理を担当し、政府機関及び民間部門の機関と調整を行い、委員会の方針に基づいて業務を実施する。また、業務報告書及び基金の財務報告書を作成する。
- 第4部 財務、会計及び監査
基金は、適切な基準に従って会計及び財務報告書を作成し、内部監査人及び国家監査局による監査を受ける。また、毎年の業務報告書を作成し、閣僚会議に提出するとともに、一般に公開する。
第5章 国家気候変動適応のための基本計画(第38~42条)
- マスタープランの策定及びレビューは、5年ごとにレビューする必要がある。
- マスタープランの詳細には、適用期間、温室効果ガスの排出状況、温室効果ガス削減目標、適応策、及び実施方法と結果の追跡方法に関する重要な情報が含まれる。
- 追跡及び報告について、政府機関はマスタープランに基づいて進捗状況をDCCEに報告し、DCCEは業務の進捗を監視、支援し、結果を2年ごとに委員会に報告する責任がある。
- 問題及び対立の解決。
第6章 温室効果ガス情報(第43~65条)
- 第1部: 国家温室効果ガスインベントリ
DCCEは、温室効果ガスの排出、貯蔵、及び削減活動に関するデータを、各分野(エネルギー及び交通、産業プロセス及び製品使用(Industrial Processes and Product Use: IPPU)、農業、森林及び土地利用、廃棄物)ごとに規定された通り、各分野の主たる調整機関である政府機関から収集する権限を有するものとする。
- 第2部: 法人の温室効果ガス排出量報告
法人の温室効果ガス排出量報告は、これらのデータを収集・分析し、温室効果ガス削減措置、温室効果ガス排出権取引制度、及び温室効果ガス削減の推進に使用するために行う。報告の実施方法は下記の通り定められています。
- 報告義務者
- 報告内容
- 確認作業
- 報告書の認証
- データ管理システム
- 情報の公開
第7章 温室効果ガスの削減(第66~71条)
- 温室効果ガス削減行動計画の策定
温室効果ガス削減行動計画は、マスタープランに一致している必要があり、国家発展政策、関連部門の能力、経済、社会、環境への影響、さらに法律及び国際的な義務を考慮する必要がある。
- 計画の内容
計画には、適用期間、状況報告、削減された温室効果ガスの量、部門別の目標、政策及び措置、さらに予算及び進捗確認方法が含まれる必要がある。
- 推進及び進捗管理
DCCEは温室効果ガス削減計画を実行するため、関連機関を推進し、調整する責任を負い、目標達成に向けて進捗を確認し、支援を行い、2年ごとに進捗報告を委員会に提出する。
- 問題解決及び対立解消
温室効果ガス削減計画が実施されていない場合、委員会はDCCEに対して関連機関と協議し、問題解決のための提案を行うよう指示できる。
第8章 温室効果ガス排出権取引制度(第72~99条)
温室効果ガス排出権取引制度(Emission Trading Scheme: ETS 又は Cap and Trade)は、気候変動法案において温室効果ガス排出を管理する強制的なメカニズムである。温室効果ガスの排出量の上限を国の目標に合わせて設定し、排出権(Allowance)を無償又はオークション方式で配分する計画を実施する。また、排出権を超過して温室効果ガスを排出した場合には、監査及び罰則が適用される。
第9章 国境炭素調整措置(第100~117条)
タイでは温室効果ガス排出権取引システム(ETS)と炭素税の仕組みが導入されることにより、生産拠点の移転や温室効果ガス排出の国外移転、又は国内で生産される同一商品に代わる輸入品の増加が予想される。これは、気候変動に関する政策や法律の厳格さが異なるためである。この問題を防ぐために、輸入品に対して国境炭素調整措置(CBAM)が省令で定められることになる。
第10章 炭素税(第118~147条)
炭素税は、温室効果ガスの排出を管理する強制的なメカニズムであり、温室効果ガスの排出コストを税金として設定し、排出ガスを発生させる業界や輸入業者から徴収することが規定されている。
第11章 カーボンクレジット(第148~155条)
- 第1部:カーボンクレジットの管理と使用
カーボンクレジットを効率的に管理し、国際合意の枠組みに従い、追跡と監視の透明性を確保し、国内での温室効果ガス削減プロジェクトを支援することにより、国と国民の利益を守る。
- 第2部:カーボンビジネスとサービスの管理
カーボンクレジットの売買及び移転が法律に従って厳格に行われるよう監督し、不正行為や不適切な使用を防止する。これにより、カーボンクレジット市場の透明性と信頼性を高める。
第12章 気候変動への適応(第156~172条)
気候変動への適応と免疫力の構築に必要な措置を講じ、現在及び将来予測されるリスクや影響に対処できるようにするため、次のように実施することが定められている。
- 第1部:計画立案と実施の推進を支援するための情報と知識の作成
- 第2部:気候変動への適応計画の策定と推進
第13章 気候変動及び環境に配慮した経済活動分類基準(第173~175条)
委員会は、「気候変動と環境を考慮する経済活動の分類基準」或は「タクソノミー」を策定する必要がある。この基準は、すべての関係者が共通理解を持ち、気候変動対応の進捗状況を評価するための参照ポイントとなり、戦略的計画の策定、政策の決定、実施計画の立案、及び資金の配分と使用を標準化し、一貫性を持たせることを目的とする。
第14章 罰則規定(第176~197条)
違反行為を防止し、その結果として生じる有害な影響を回避するため、また法律に従うように個人を促すために、本法は違反の影響の深刻さに応じて刑事罰及び民事罰を定めている。以下のケースにおいて、適用される。
- 情報報告に関する本法律に違反すること
例えば
- 活動データの収集または報告の不履行: 1万バーツ以上10万バーツ以下の罰金、及び報告が完了するまで1日あたり最大1,000バーツの追加罰金が科される。
- 虚偽のデータ報告: 3万バーツ以上30万バーツ以下の罰金、及び報告が完了するまで1日あたり最大3,000バーツの追加罰金が科される。
- 虚偽の温室効果ガス排出報告の提出: 最大500万バーツ又は得られる利益の3倍のいずれか高い額の罰金が科される。
- 温室効果ガス排出報告の未提出: 最大10万バーツの罰金、及び報告が提出されるまで1日あたり最大1万バーツの追加罰金が科される。
※1バーツは約4.58円(2025年1月10日)
- 温室効果ガス排出権取引制度(ETS)に関する本法律に違反すること
例えば
- 不正に温室効果ガス排出枠(Allowance)を自己又は他者に取得させた場合: 最大500万バーツ又は得られる利益の3倍のいずれか高い額の罰金が科される。
- 国境炭素調整措置(CBAM)に関する本法律に違反すること
例えば
- 輸入品の温室効果ガス排出量報告を未提出の場合: 最大500万バーツの罰金が科され、報告が提出されるまで1日につき最大10,000バーツの追加罰金が課される。
- 輸入品の温室効果ガス排出量報告を虚偽で提出した場合: 最大500万バーツ又は得られる利益の3倍のいずれか高い額の罰金が科される。
- カーボンプライス調整証明書の料金未納: 最大10万バーツの罰金が科される。
- 炭素税に関する本法律に違反すること
- カーボンクレジットに関する本法律に違反すること
例えば
- カーボンクレジット事業を未登録で運営した場合: 1万バーツから10万バーツの罰金が科され、登録が完了するまで1日につき最大1,000バーツの追加罰金が課される。
附則(第198~202条)
本法律は、気候変動に関する取り組みを継続的に推進するため、緊急に制定すべき次の段階の法規制の期限を明確に定めるとともに、施行初期における法的義務者の負担を軽減するため、特定の法的義務の免除を規定することを目的としている。
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